画用液を初めて使う人へ |
画用液の種類はどうしてこんなに多いの?
確かに迷うのも、当然ですね。画用液は全体で30種類近くもあります。家庭用塗料で画用液に相当するものは、ペイントの薄め液とハクリ剤くらいしかない
ので、大変な品数に思えます。しかし、実は油絵具という色材は、成分を分解し、細かくパーツ分けして売っているような設計になっているので、品数が多く
なるのです。だからこそ、各個人の目的に合わせ、きめ細かく使い分けができるということにもなります。 |
初めて描くときに、揃えておきたい画用液
数ある画用液ですが、初めて絵を描く方は、まず「ネオペインティングオイル」と「ブラッシクリーナー」を揃えるとよいでしょう。この2種類はスケッチセットに通常セットされています。「ネオペインティングオイル」で絵具を溶いて、「ブラッシクリーナー」で筆を洗うという、基本用途をカバーできます。「ブラッシクリーナー」は、少量だとすぐに絵具で汚れてしまうので、500ml以上用意しておきましょう。「ネオペインティングオイル」を効果的に使うなら、濃度を調節するための「テレピン」か「ペトロール」を加えればよいでしょう。分量などの詳しい使い方は「画用液の基本的な使い方」をご覧ください。 |
ペインティンプオイル1本で絵は描けるのか
「ネオペインティングオイル」があれば絵を描くことはできます。調合にしても、そのままで使えるような濃度バランスに設定されています。しかし、「テレピン」や「ペトロール」で濃度調整すると、それ以上に快適に描画できますし、作品自体の耐久性もよくなります。
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一般的に使われる、3つのペインティングオイルの相違点
ペインティングオイルとしては5種類あります。その中で一般的なものとしては、「ネオペインティングオイル」「ペインティングオイルスペシャル」「ペインティングオイルクイックドライ」があります。「ネオペインティングオイル」や「ペインティングオイルスペシャル」くらいの濃度ではまだよいのですが、「ペインティングオイルクイックドライ」くらいの高濃度になってくると、それ1本だけで最初から最後まで描くのはむずかしくなってきます。「画用液の基本的な使い方」を一度試してみてはいかがでしょう。
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サラッとした溶き油が好き
画用液の粘性をもとにした選び方として、溶き油の流動性は、筆運びに大きく影響するので重要なポイントです。サラッとしていれば、当然筆運びはよくなります。ペインティングオイルの中では、「ネオペインティングオイル」と「ペインティングオイルスペシャル」は高い流動性があります。サラサラした揮発性油の量が多めで、成分自体にあまり粘りがありません。さらに「テレピン」や「ペトロール」で薄めると、もっとサラサラします。しかし、揮発性油が蒸発していけば、粘度は上昇しますので、画用液の流動性は描画時間とともに変化していきます。 |
少し粘りけのある溶き油が好き
粘り気があると、筆運びが悪いかというとそうではなく、仕上げに向かう画面構築の上で有効な一面もあります。画用液の粘りとはハチミツ状の粘りです。「ペインティングオイルクイックドライ」「ダンマルペインティングオイル」「コーパルペインティングオイル」が比較的粘りがあります。
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画面の乾燥 |
絵具を速く乾かす画用液
絵具の乾き具合も、画用液選びの重要なポイントです。速く乾かしたい時は「超速乾メディウム」を使います。これはあらかじめ絵具に、1:1の割合で混ぜて
使ってください。速ければ3時間、遅くてもひと晩で確実に乾きます。薄め液としては「テレピン」がよいでしょう。混合作業がめんどうならば、「ペインティングオイルクイックドライ」を通常の溶き油として使ってください。速乾タイプの画用液は、屋外スケッチでは溶剤の蒸発が速いので使いづらいかもしれません。天気の
よい日などは、パレット上で絵具があっという間に乾きはじめます。
超速乾メディウムの混ぜ方

絵具に混ぜるメディウムの料は絵具とほぼ同量 |

パレット上でナイフを使いムラにならないよう、よく混ぜる |

超速乾メディウムを混入すると、透明感が増します。 |
乾燥補助剤「シッカチーフ」の、知っておきたい使い方。
絵具の乾燥を中まで進める補助剤として「ホワイトシッカチーフ」と「ブラウンシッカチーフ」の2種類があります。「ホワイトシッカチーフ」は乾燥促進力はおだやかです。一方「ブラウンシッカチーフ」は強力に乾燥を進めますが、シワやヒビ割れといった副作用もありますので絵具と混ぜる際、比率に注意してください。油壷の画用液に混ぜる方法はお薦めできません。「超乾燥メディウム」と「ペインティングクイックドライ」、シッカチーフは併用しないでください。効果の相乗を期待できないばかりか、思わぬトラブルを引き起こす場合があります。
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ブラウンシッカチーフと絵具の割合 |
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絵が速く乾いて困る
絵具の乾燥をあまり速めたくない時は、画用液の簡単な自作をお薦めします。「ポピーオイル3:ペトロール7」の割合で混ぜたものが、筆運びもよく、長時間の描画に向いています。既製の溶き油で済ませるなら「ネオペインティングオイル」が一番乾燥が遅いでしょう。また「グレージングバニス」も乾燥が遅いのですが、蒸発にともなって粘りが出る傾向があります。 |
仕上がった絵の乾きが遅い今から乾きを早めたい
絵を後から乾かす画用液があればすごく便利ですが、実際は存在しません。長い時間自由に描いて、終わったら一気に乾かすことは、油絵具の乾燥機構上できません。
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画面のツヤ |
画面にツヤを出したい
画面にツヤを出したい、ツヤを保ちたい場合は、樹脂分の多い溶き油ほど、効果が得られます。「ダンマルペインティングオイル」「コーパルペインティングオイル」「パンドル(使い方に注意が必要)」などを使うとよいのですが、ツヤは画用液選びよりも使い方のほうがポイントになってきます。テクニカル情報「光沢の出し方」をご覧ください。
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画面をマット〈ツヤ消し)にしたい
画面をマット(ツヤ消し)にしたい場合は、「クリスタルメディウム」が効果があります。描き出す前に、絵具とよく混ぜておいてください。薄め液は「テレピン」を使い、混ぜる比率は任意でかまいません。多く混ぜるほどツヤ消し効果は上がりますが、色が薄くなりますのでご注意ください。大切なのは、混ぜる比率を色によってまちまちにせず、一定にしておくことです。この「クリスタルメディウム」を混ぜた絵具は、乾いてからの塗り重ねがあまり効きませんので、一気に描きあげるとよいでしょう。メディウムを使わずにツヤを抑えるには、「テレピン」や「ペトロール」などの揮発分の多い油を使えばいいのですが、あまり薄めすぎると絵具の固着に影響しますので、薄塗り以外にはお薦めできません。
クリスタルメディウムの混ぜ方

絵具とメディウムをパレット上にしぼり出す |

パレット上でナイフを使いムラにならないよう、よく混ぜる |
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部分的に出たツヤを全体に統−させるには
油絵の画面は、時間とともにツヤがひけて行く傾向にあります。全体に進行すればいいのですが、部分的にツヤがひいたり、残ったりすることがよくあります。それを修正する代表的な画用液が「ルツーセ」と「タブロー」です。
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仕上がった絵にツヤを出したい
「ルツーセ」は一時的にツヤを均一化して「描き加え」を容易にする画用液、「タブロー」は半永久的に働く画用液です。両方ともツヤがあります。
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ニスがけの時に完全乾燥は必要か
2種類とも絵具が生乾きの時には、使わないでくだ さい。「ルツーセ」は指で触れて絵具がかちっと乾いてから、「タブロー」は乾いてから半年以上経ってから使ってください。 |
完全に乾燥していないが、すぐに展示したい
早い時期に画面のツヤがバラバラになった時に便利な画用液は、「タブロースペシャル」です。これは指で触れて、絵具がつかない状態であれば使えます。少し柔らかい光沢面になります。完全に乾燥していないが、すぐに展示したい場合にこの方法を使います。完成後の画面をツヤ消しにする画用液は「マットバニス」(ウィンザー&ニュートン社)ですが、現在クサカベ製品にはありません。 |
透明性について |
絵具の透明性を生かす画用液
絵具特有の透明性を生かすには?ツヤの他に画面の演出効果として、油絵特有「透明性」があります。「グレージングバニス」は、最も効果的な画用液で、ガラスに匹敵する透明な効果を出す溶き油です。「起速乾メディウム」「クイックドライングメディウム」「クリスタルメディウム」も、混ぜる量が多くなれば透明になります
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絵具を厚塗りしたい
絵具が厚く塗られているか、薄く塗られているか7も画面効果は異なります。しかし、専用の画用液というものは特にありません。補助剤としては、厚塗りの時に「クリスタルメディウム」があります。絵具の硬さをあまり変化させることるく、適度な強度を与えてくれます。使い方はこちらをご覧ください。
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絵具を薄塗りしたい
薄塗りの場合には、絵具自体の透明性が関連してくる場合があります。不透明な薄塗りにしたい場合は画用液よりも、絵具の選択次第となります。(絵具には色によって透明、半透明、不透明と表示してあります。)
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画面の保護 |
仕上がった作品を保護したい
完成した絵をしっかり保存したい時、仕上げ用のニスとして「タブロー」を使うのが一般的です。瓶とエアゾールの両方があります。瓶を使うときは、一度に原液を厚く塗るよりも、2割くらいの「テレピン」や「ペトロール」で薄めたものを、2回塗りした方がうまくいきます。
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タブローを少量のテレピンで薄めて使う |
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作品を丈夫な画面にするには
作品を丈夫にするのは、作画プロセスで決まりますので、「タブロー」はその後の保護、いわゆる汚れ防止膜のようなものに過ぎません。「タブロースペシャル」は保護作用が弱く、画面効果調整剤の性格が強い製品です。「タブロー」は、絵ができ上がって半年以上経ってから塗るのがよい方法です。 |
昔描いた作品を保護したい
何年も 経ってから使おうとする場合、たいてい絵が汚れています。そのままニスがけすると、汚れを閉じ込めてしまいますから、「テレピン」を含ませたきれいな布で、画面をきれいにしてから塗ってください。
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下描きした木炭を残しながら絵具をのせたい
フキサチーフは、保護剤というより定着剤。定着剤として「フキサチーフ」という画用液があります「フキサチーフ」は軽くて微細な粒子を画面に固定させる画用液で、保護剤というほどのものではありません。主に木炭画やパステル画に使われます。木炭で下描きをして、これを「フキサチーフ」で仮固定してから油絵具で描き込んでいく描き方があります。ただし、画面に木炭粉が残るものはあまり好ましくないので、油絵は油絵具だけで構成する方がよい「しょう。
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画面の修正と修復 |
画面の絵具をはがして修正したい
仕上がった絵の、ある部分を直したいとき。「仕上がったがどうも気に入らない部分があって修正したい」、「絵具は乾いてしまっている」、「用具の掃除をうっかり忘れていて絵具が固まってしまった」など、このような場合、修復とは反対に画面を壊す画用液である「ストリッパー」を使用します。古キャンバス全体を剥がして再生させるのはお薦めしません。労力と結果を考えれば、新しいキャンンバスを買った方がいいでしょう。「ストリッパー」を使う時の注意ですが、極力換気のよいところで、皮膚や粘膜につかないようにしてください(画用液一般にいえますが、特にこの画用液は有害性が高いのです)。また熱源の近くでは使わないでください。引火はしませんが、60℃以上になると刺激の強い有害なガスに分解されますので、十分注意してください。
ストリッパーを使って画面の一部を剥がす

ナイフや筆ではがしたい部分にストリッパーを塗る |

2〜3分程度で絵具がふやけて浮いてきます |

ナイフで浮き上がった絵具をかき取る |

画面に残った絵具を布や紙でふき取る |
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修復に使用できる画用液は
傷んだ絵の修復は、まず専門家に相談を。古い絵は傷んでいる場合があります。部分的に割れかけているとか、絵具全体がもろくなっていたとき、画面にニスがけをすると悲惨な結果になりかねません。ニスがけをやめて専門の修復家に相談してください。
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問題発生時の原因と注意点 |
絵具に亀裂が入ってしまった。 |
■基底材から
●1層目からジンクホワイトを使っていませんか?油と反応して金属石けんを作ってしまうジンクホワイトは、下地から使用すると亀裂の原因となります。
●絵具を極端に厚塗りしたり、上層の絵具に乾燥剤を多く使っていませんか?−度に絵具を厚塗りしたり、下と上の絵具の乾燥速度が大きく違うと亀裂の原因となりますので避けましょう。
●絵具の油抜きをしてそのまま使っていませんか?顔料に対して油分が少なくなると、画面の塗膜が弱まりますので、塗膜を強化する乾性油分を多くしましょう。またテレピンのみで描き進めていると、亀裂の原因にもなります。
■絵具表面のみ
●下塗りの絵具が乾燥不十分のまま上に絵具をのせると、起こりやすくなります。絵具の油分の少ない上に、油分の多い絵具をのせるようにしましょう。調合油やアルキド樹脂を含む画用液を使うのもよいでしょう。
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絵具がハクリした。 |
■基底材から
●湿度の高いところで描いたり保管したりしていませんか?キャンバスはきちんと乾燥したものを使用しましょう。
●キャンバスの表面が汚れたまま描いていませんか?使用前にキャンバスの汚れをきれいにふき取り、きちんと乾燥させてから使用しましょう。
■絵具表面のみ
●油絵具の助剤として使われるロウや、金属石けん、シッカチーフに含まれる乾燥剤などを多く使ったり、ジンクホワイトを多く使っていませんか?これらは画面の表面に浮き出やすく、絵具の固着力を疎外する恐れがあります。画面の表面を揮発性油などでふき取るか、サンドペーパーで荒らしたり、凹凸をつけながら絵具をのせます。剥がれた絵具層は全て除去してから次の絵具をのせるか、ひどい場合は専門家に依頼しましょう。
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色が変色してきた。 |
■黄変
●乾性油(加工)を多く使っていませんか?これらは絵具に色がつきやすく、黄変の原因にもなります。
●作品を長期間暗い場所に保管していませんでしたか?晴所に作品を保管すると油が変質して黄変します。黄変が気になりだしたら、30分〜1時間程度日光浴させましょう。
■褪色(たいしょく)
●耐光性の弱い絵具を使用していませんか?これは顔料に原因があり、チューフラベルに表示されている「耐光性」を確認し、星の数が多い耐光性が強いものを選ぶと防げるでしょう。 |
絵具表面にちりめんジワが寄った。 |
乾燥剤を多く使っていませんか?絵具に乾燥剤をたくさん混ぜるとシワが寄ります。また、下の絵具が生乾きの状態で上にのせる絵具に乾燥を促進させるものを入れた場合でも起こりやすくなります。乾燥速度の差で表面の絵具が縮んで、細かいシウが寄ることがあります。シッカチーフ類やアルキド樹脂など、乾燥を促進させるものを混ぜた絵具を使う場合、下の絵具層をきちんと乾燥しているか確かめましょう。 |
タブローをかけすぎて、ベタベタになった。どうすれば元にもどる? |
心配だからといってかけ過ぎはよくありません。タブローの成分は大半は樹脂分でできており、かけ過ぎると表面がべタベタになります。揮発性油を柔らかい布などに浸し、軽く拭き取った後、きちんと乾燥させ、再度1〜2回程度タブローを塗りましょう。 |
古い作品がホコリやヤニで汚れてしまったがきれいにするには? |
きちんと作品を保存していても、ホコリや黄変などは免れられません。定期的なケアーが必要になります。揮発性油を柔らかい布などに含ませ、軽くふき取ります。きちんと乾燥させた後、タブローで保護します。ガラス付きの額でヤニやホコリはある程度防げるでしょう。 |
絵具やニスを上塗りする時に、はじかれてノリが悪くなった。 |
乾性油分が多くなりすぎていませんか?下地に油分が吸収していくことで絵具が定着していきますが、多すぎる油分は下層の油分が飽和状態になり、余った油が表面に浮き出て、絵具が画面上で滑って〈のらなくなる)しまいます。また、平滑な画面も絵具の食いつき(定着)を阻害するので、サンドペーパーで表面を荒らす処理が必要です。 |
ツヤが出ず、いつまでもカサカサな画面 |
揮発性油を多く使っていませんか?テレピンやペトロールなどは時間が経つと、揮発して画面にほとんど残りません。ですからテレピンやペトロールだけで描くとツヤが引けた画面となり、光沢はあまり出ません。しかも画面の塗膜がもろくなり、亀裂や剥離の原因にもなります。光沢をもたせ、かつ塗膜を強化するためには、乾性油分を増やしてください |
テレピンを長期間保存していたらドロッとして黄変した。 |
日の当たる場所に置いたり、容器のフタが開いた状態になっていませんか?テレピンは空気や日光に晒されると変質しますので、変色や粘性が出てきます。暗所で容器から空気を遮断して保管しましょう。 |
ペインティングオイルクイックドライを途中まで使用して放置していたらゲル化した。 |
容器の蓋はきちんと閉まっていますか?少しでもすき間があれば空気に触れて中の揮発成分がなくなり、残った樹脂分がゲル化してしまいます。容器はしっかり密封して暗所に保管してください。 |
油壷の中に画用液を入れっぱなしにしていたら、色が変化した。 |
油壷に画用液を入れたら、その日のうちに使い切るか、残っていたらきれいにふき取りましょう。油は空気に長時間触れると変質しますので、性能も落ちてきます。油壷は画用液の保存に適していないのです。 |
画用液のニオイが変化した。 |
油は空気に触れると酸化して変質します。その時にニオイも変化が起こります。目で見て変化したり、ドロツとしてきたり、ニオイがひどくなったら、使用を避けてください。 |